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見守り契約・財産管理契約・死後事務委任契約って何? 任意後見制度をより効果的に利用する方法について

任意後見制度を利用する場合、ご本人の判断能力がしっかりしている時に「任意後見契約」を結ぶことが必要になります。

ご本人の判断能力がある状況で「任意後見契約」を結ぶことで、将来、判断能力が低下してしまった時に、家庭裁判所への申し立てにより任意後見監督人が選任され、任意後見人が後見業務を行うことができます。

ここで、注目していただきたいことがあります。

それは、任意後見契約の「効力発生のタイミング」と「消滅するタイミング」です。

任意後見契約は、前述のとおり、契約直後から後見が開始されるわけではなく、ご本人の判断能力が低下した後、任意後見人が正式に就任することにより、初めてその効力が発生します。

裏を返せば、任意後見契約を締結した後に、ご本人の判断能力が低下していても、裁判所への正式な手続きを踏まない限り、任意後見人の予定者であっても、基本的に何もすることができません。

また、ご本人が亡くなられると、任意後見人の代理権は消滅してしまうため、生前、任意後見人だった方でも、葬儀等の事務手続きや相続手続きを代理することはできません。

つまり「契約締結から効力が生じる前」と「ご本人が亡くなられてしまった後」、この期間は、ご本人に対するサポートが一切ない状況になってしまうのです。

ここで本日の本題に入ります。 

この「任意後見契約締結から、任意後見人が就任するまで」と「本人が亡くなった後」という、任意後見契約だけでは対応できない「空白の時間」をケアするための手続きがあります。

それが「見守り契約」、「財産管理契約」、「死後事務委任契約」そして「遺言」です。

これらのうちの一部、または全部を任意後見契約とセットで利用することにより、任意後見契約だけではカバーしきれない期間のサポート体制を整え、より万全の準備をすることが可能となります。

これらの組み合わせによる利用は、通称『任意後見契約3点セット』、『4点セット、5点セット』などと呼ばれています。

実際、任意後見契約を結ぶ方の多くは、任意後見契約を単独ではなく、それぞれのご状況に合わせて、「見守り契約」「財産管理契約」「死後事務委任契約」そして「遺言」を組み合わせています。

では、それぞれの特徴や効果について、一つずつ確認していきましょう。

見守り契約

任意後見契約締結後、ある程度の期間が経過してから、ご本人の判断能力が低下したと仮定します。

当然、任意後見契約の効力を発生させる必要がありますので、家庭裁判所に申し立てを行わなければいけません。

しかし、ご家族などが同居していれば良いですが、ひとり暮らしをしている方、近くに親族がいない方などは、ご本人の判断能力が低下したことを誰も確認できませんので、家庭裁判所への申し立てがされる可能性は極めて低いです。

もちろん、ご自身で判断能力の低下を自覚し、家庭裁判所に申し立てを行うことも可能ですが、実際には、判断能力の低下に気づかない(気付いてもそれを受け入れられない)ことが多く、また、申立てにも一定のハードル(書類作成や必要資料の収集)がありますので、そういったケースは稀だと言えます。

つまり、ご本人のライフスタイルによっては、せっかく任意後見契約という準備をしたにもかかわらず、その準備が意味をなさない状況に陥ってしまう可能性もあるということです。

 そういった状況にならないために用意されている契約の一つが「見守り契約」です。

見守り契約は、契約を結んだ後から任意後見契約の効力が発生するまでの間、任意後見人になる予定の方が、ご本人と定期的にコミュニケーションをとり、任意後見契約の効力を発生させるタイミングをチェックしてくれる契約です。

この契約を結んでおくことで、適切な申し立ての時期を逃してしまうリスクはほぼ無くなります。

チェックの具体的な方法は、定期的に電話連絡で近況確認を行うことや、2~3か月に一度、直接面会して、健康状態や生活環境のチェックを行うといった内容が多いです。

なお、「見守り契約」は、自由な契約ですから、「週1回は電話で連絡」、「月1度は直接面会」という具合に、当事者間で自由に内容を決めることが可能です。

また「見守り契約」には、ご本人の状況確認以外にも、大きなメリットがあります。

それは、将来、任意後見人になる方と、定期的に連絡や面会をするにより、多くのコミュニケーションをとることができ、信頼関係を構築しやすいという点です。

任意後見が開始された後、自分に代わって代理行為をしてくれる人が「どういう人なのか」、「自分の判断能力が低下した後、しっかり後見業務をしてくれる方なのだろうか」といったことを、判断能力があるうちに、じっくり見極めることができます。

見守り契約中に、将来後見人になってくれる方の対応を確認できるわけですから、任意後見契約の見直しや解除という選択肢も検討することができ、「将来に向けた安心」という意味では、とても良い契約と言えます。

財産管理契約

ひとつ前にご説明した「見守り契約」は、あくまでもご本人の状況確認や信頼関係の構築、申し立てのタイミングを見極めることが契約の目的となります。

ただ、人によっては、任意後見契約の効力発生前から一定の権限を与えて、自分の財産の一部または大部分を管理してもらったり、必要な契約を代理してもらうための代理権を与えたいと考える方もいらっしゃいます。

そのことを実現する契約が「財産管理契約」です。

「財産管理契約」では、日常的な預貯金の管理から公共料金の支払い、収入支出の管理、賃貸物件の管理など、任せたいことを契約に定めることにより、その行為を代理してもらうことができます。

この「財産管理契約」の説明を読んで「あれ?これって任意後見と同じでは?」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。実はその通りです。

任意後見契約も財産管理契約も、契約の中で、代理してもらいたいことを指定することによって、代理権を与えるという意味では全く同じです。 

しかし、決定的に違うところが2つあります。

1つ目は、任意後見契約は、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所に申し立てをして、始めて効力が発生するのに対し、財産管理契約は、契約によって、その効力発生時期を自由に決めることができるという点です。

例えば、契約後すぐに効力を発生させることもできますし、80歳の誕生日に効力を発生させるといった指定もできます。

つまり、財産管理契約は「好きな時から利用できる任意後見」と言えなくもありません。

そうであれば「財産管理契約の方が優れているのではないか?」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、財産管理契約には大きなデメリットがあります。

それが2つ目の違いである「第三者による不正チェック機能」です。

何度も説明をしていますが、任意後見の効力が発生するのは「家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されたとき」です。

つまり、任意後見人には、初めから業務を管理監督するために監督人がおかれ、どのように業務を行っているか、不正をしていないかをチェックしてくれます。

そして、監督人の後ろでは家庭裁判所も目を光らせているので、後見人の不正や業務懈怠という事態は起こりづらいと言えます。

これに対し、財産管理契約は、家庭裁判所が関与しない契約なので、基本的にはご本人以外にチェックを行う人間はいません。

そのため、ご本人が元気なうちは、ご自身で受任者の業務をしっかりチェックする必要があります。

そして、ご本人の判断能力が低下し、チェックすることができない状況になった後も、受任者が任意後見を開始するための申し立てを行わければ、言い方は悪いですが、受任者の好きなように財産を使われてしまう可能性もあります。

こういった事態を避けるため、財産管理契約の中で、ご本人以外の方が定期的に業務をチェックすることや、「重要な取引を行う際は第三者の同意が必要」といった条項を契約書に盛り込むといった対応をされる方もいらっしゃいます。

また、受任者の働きぶりをチェックしながらコミュニケーションを取り、信頼関係を構築していく中で、少しずつ代理してもらう行為を増やしていくというのも1の方法だと思います。

財産管理契約は、非常に自由度も高く、とても使い勝手のよい契約ではありますが、使い方を間違ってしまうと、大きな損害を生むことにもつながりますので、契約の際は、内容等を慎重に検討する必要があります。

死後事務委任契約

これまでにお話しした2つの契約は、「任意後見契約を結んでから任意後見人が就任するまで」の間をケアするための契約でしたが、次にお話しする「死後事務委任契約」は、ご本人が亡くなった後をサポートするための契約です。

ご本人の死後については、遺産の相続手続きに注目が集まりがちですが、その前にやらなければならない事務手続きが山ほどあります。

しかし、最初にお話ししたとおり、任意後見や財産管理契約などは、原則として、ご本人が亡くなると代理権が消滅してしまいます。

代理権が消滅してしまえば、遺体の引取や葬儀に関すること、医療費の精算、施設や賃貸住宅の費用の支払いや退去手続き、その他の諸手続等の事務手続きをすることはできません。 

また、死後の事務手続きも大切ですが、葬儀や納骨等の死後の事務手続きに関して、何かしらの希望を持っていたとしても、それを実現してくれる人に予め頼んでおかなければ、それが実現される可能性は低くなります。

近くに相続人がいる場合は、手続きをやってくれる場合も多いと思いますが、遠くに住んでいたり、親族と疎遠であることや、そもそも親族がいない方もいらっしゃるでしょう。

そういった場合に備えて契約するのが「死後事務委任契約」です。

死後事務委任契約の中で、死後の手続きに関する希望や誰に何を任せるかを決めておくことで、葬儀・火葬・納骨等のこと、医療費の支払いや、施設の退去手続きのこと等について、自分の望むような形で、死後の手続きを対応してもらうことが可能です。

実際はご本人の死後は、やることも多いのに加えて、病院や施設から早く遺体の引取を求められたりと、早急に対応しなくてはいけないことが非常に多いです。

ですから、来る日に備えて、元気なうちからしっかり対応してくれそうな方と「死後事務委任契約」を締結することは、広い意味での「相続対策」とも言えます。

遺言

最後にお話しする遺言も「ご本人が亡くなった後」をサポートするための手続きです。

遺言については、他の記事においても色々お話しさせていただいておりますので、ここでは「死後事務委任契約との違い」にだけ触れたいと思います。

遺言も死後事務委任契約も、本人が亡くなった後についての希望を実現するための手続きではありますが、遺言「遺産の分配等」を指定するのに対し、死後事務委任契約はその名の通り「事務手続き」を委託するものです。

ですから、遺産の分配方法等を、死後事務委任契約に記載しても有効なものとはなりません。

逆に、遺言の中で、死後の事務について遺言執行者に委託したり、付言事項として記載することはできなくはありませんが、遺言が表に出てくる頃には、法事等が終わっていて、遺言に記載した葬儀の希望などが実現されない可能性は高いと言えます。

 一方、遺言は、誤解を恐れずに言えば「遺言者の一方的な思い」のため、遺言の中で死後事務を頼まれた人がいても、その方はそれを拒むこともできます。

また、付言事項に書いた場合であっても、法的な拘束力は発生しないため、無視することもできてしまいます。

その点、死後事務委任契約は「契約」ですので、契約の相手方は、契約を履行する義務があります。

 また、契約をした方は、ご本人が何を望んでいたのかを把握しているため、ご本人の死後、死後事務委任契約の内容を、確実かつ迅速に実現してくれるはずです。

ご自身の希望を実現させ、スムーズに死後の手続きを進めるためにも、「死後事務委任契約」と「遺言」を一緒に利用することは、当窓口でもおススメしております。

今回は、「任意後見契約と一緒に行う契約」をテーマにお話をさせていただきましたが、これらをすべて利用する必要はありません。

また、すべてを同じ人に依頼しなければいけないわけではありません。

どの契約にしてもメリットだけではなく、デメリットもあります。

ですから、それらを十分に検討して、ご自身のニーズに合わせて、利用を検討されると良いと思います。

当窓口でも、任意後見・法定後見のご相談はもちろん、今回取り上げた、「見守り契約」、「財産管理契約」、「死後事務委任契約」そして「遺言」のご相談や手続きもお受けしておりますので、お気軽にお問合せください。

私たちのサービスが、お役に立ちますように。

当記事は、記事執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
この記事の監修者

新宿の司法書士 中下総合法務事務所
代表司法書士 中下 祐介

司法書士/簡易裁判所代理権/民事信託士
宅地建物取引士/家族信託普及協会 会員
ファイナンシャルプランナー

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