相続対策の一つに「相続税対策」、いわゆる「節税」があります。

中でも近年、不動産投資(アパート経営、ワンルームマンション投資等)を行う方々による「会社(法人)」を使った節税スキームが流行していて、様々な場所でセミナーなどが開催されています。

 しかし、法人を利用することで大きな節税に成功する人がいる一方で、「こんなはずではなかった」「聞いていたのと違う」と感じる人も多いようです。

なぜ、そのような状況に陥るのでしょうか?

それは、会社を使った節税スキームのメリットばかりに目を取られ、デメリットやコストを理解していないからです。

今回は、不動産オーナーが会社を利用して節税する手法、いわゆる「資産管理会社」について解説します。

一度実行すると、なかなか元に戻したりやり直したりすることが出来ません。

言われたとおりに飛びつく前に、まずは落ち着いてこのスキームのことを考えてみましょう。

 

①会社を使った節税の仕組み

不動産管理会社は、個人の収入を移転させたり会社へ経費を支払うことで、個人の所得を減らし、税負担を軽減する仕組みです。

例えば、地主さんや農家さんは、1人で多くの不動産を所有しているケースが多く見られます。

その場合、当然、不動産から生じる収入も1人に集まります。

個人の所得税は、所得(利益)が大きくなるほど税率が高くなる仕組みですから、1人に収入が集中すると、必然的に税金の負担も大きくなってきます

そこで、「資産管理会社」を使います。

下図のように不動産を会社に移転させると、収入が会社に入るようになります。

そして、会社の収入を家族で分散して受け取ることで、税金の負担を大きく減らすことが出来るのです。

※この他に会社に不動産管理料を支払う形などもありますが、当記事では割愛します。

741-2.png

②メリット

・収入の分散による所得税の軽減

収入を分散することで、オーナー1人で収入を得ていた時と比べて一人ひとりの収入は少なくなります(全員トータルではほぼ変わりません)。

一人ひとりの収入が変われば、所得税率が下がり、税負担が少なくなります。

 

・給与所得控除による所得税の軽減

同じ手取り収入でも、給与の場合は「給与所得控除」という一定の控除額があり、所得税・住民税の負担が軽減されます。

給与額が年間65万円以下であれば、給与に対しては税金がかかりません。

例えば300万円の不動産所得と300万円の給与収入だと、給与のうち実際に課税されるのは192万円となります。

収入の分散と給与所得控除をうまく組み合わせることで、節税効果は大きく上がります。

 

・所得税と法人税の税率差による税負担の軽減

個人の場合、所得税(最大45%)、住民税(10%)、個人事業税(5%)で最大60%の税金がかかります。

法人税の場合、中小企業(資本金1億円以下)は法人税・住民税・事業税を合計しても約23%(利益800万円部分まで)です。

同じ利益を出すなら個人よりも法人の方が税金が少なく、手残りは増加します。

 

③デメリット

・流通税

不動産管理会社に不動産(主に建物)を移転する際、登録免許税と不動産取得税がかかります。(その他に司法書士費用が掛かる場合もあります。)

それぞれ固定資産税評価額の2%と3%ですので、新築や大きな建物の場合はそれなりの費用になります。

 

・譲渡所得

不動産を法人に移転する際、通常は【売却(譲渡)】の形を取ります。

その際に、取得した金額より高く売却してしまうと所得税(譲渡所得)が課税されます。特に取得から5年以内の不動産は税率が高いので気をつけましょう。

 

・法人にかかる住民税均等割・源泉徴収義務・税理士報酬

個人で所有していればかからない費用も、デメリットとして挙げられます。

その一つとして、法人住民税均等割があります。

法人住民税均等割は、市区町村によって金額が違いますが、だいたい年額7万円程度発生します。(※法人住民税均等割は、会社が赤字でも毎年納税があります。)

 また、給与を支払う場合には、源泉徴収を行う必要があり、この源泉徴収の計算や納付、年末調整、給与支払報告書の提出などの事務負担も増加します。

実際のところ、源泉徴収などの事務手続きも含め、会社の会計管理や事務処理は、個人と比べて複雑なため、税理士に依頼する方がほとんどです。

税理士に依頼をした場合は、税理士に対する報酬もかかることになります。

 

④もう一つの意外な効果

このスキームは主に税金を引き下げることを目的としていますが、実はそれ以外にも「相続対策」として有効な場面があります。

それは、賃貸用不動産が1つに対して相続人が複数人いるケースの「争族」対策です。

1つの賃貸用不動産を複数人に分けようとすると、共有持分での相続となり、収入や経費のとりまとめや管理・修繕の意思決定など、運用が何かと面倒になります。

そこで、賃貸用不動産を法人に移転させ、相続人を法人の役員にします。

そして、管理は法人が一括して行い、収益を各相続人に役員報酬として配分することで、不動産の共有管理が負担になることなく、利益を分配することが可能になります。

利用の方法次第ですが、不動産管理会社は、不動産の収益を分配したり、遺留分の代わりに役員報酬として金銭を交付するなど、相続対策の場面で有効に活用することもできるのです。

 

いかがでしたでしょうか。

前述のとおり、資産管理会社の利用は、必ずしもメリットだけではないことがお分かりいただけたと思います。

会社を作ったものの、会社にかかる手間やコストで赤字になり、最終的には個人に戻す方もいらっしゃいます。

不動産の収入は長く続きます。

ですから、様々なメリットとデメリットをきちんと計算・比較し、長期的な視野で専門家も交えて検討されることをオススメします。

当窓口でも、パートナー税理士による相続税の相談はもちろん、法務・税務面からの相続対策サービスを、司法書士とワンストップで行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

 私たちのサービスが、お役に立ちますように。

関連記事

 

静かに、大きな改正が迫っています。

平成29年度税制改正の中で、専門家が特に注目しているのが「広大地」の評価の見直しです。

適用の仕方で「数千万円」あるいは「数億円」の違いが生じるこの規定は、税務の知識と経験が大きく問われるところです。

今回は、この広大地の改正前後の違いと影響についてお伝えします。

① 広大地の評価とは

広大地とは、読んで字のごとく「広くて大きい土地」のことです。
基本的には1,000㎡以上(三大都市圏では500㎡以上。)の土地を言います。

このような大きな土地が、

・開発行為をするとしたら、公共公益的施設用地の負担が必要になる
・大規模工場用地、集合住宅に適した土地でないこと

の要件を見たすと「広大地」と呼ばれます。

これらの条件をもう少し分かりやすく言うと、下図のように、「その土地を一戸建てで分譲しようとしたら、道路を入れないといけないような広い土地」です。

開発により道路など潰れ地が発生するため、「その部分を考慮して土地の評価額を下げましょう」という趣旨です。  

①.png

広大地の要件に該当すると、その土地は次のような算式で評価します。

評価額 = 正面路線価 × 広大地補正率 × 地積  

広大地補正率は、土地の面積により変わるのですが、1,000㎡で0.55、3,000㎡で0.45などとなっていて、通常の土地よりも40%~65%も評価額が少なくなる仕組みになっています。

仮に路線価50万円、広さ1,000平米の土地の場合、

通常の土地:50万円×1,000㎡=5億円
広 大 地:50万円×0.55×1,000㎡=2億7,500万円

となり、広大地に該当するだけで大きく評価額が下がることになります。
評価が下がれば、当然、相続税も少なくなります。


② 改正の内容

今回の改正により、広大地の規定は平成29年12月31日までで廃止されます。
代わって、平成30年からは「地積規模の大きな宅地」という規定が新設されます。
地積規模の大きな宅地とは、次の要件を満たす土地で、該当する場合には土地の評価額に「規模格差補正率」を乗じて評価を行うこととなっています。

・1,000㎡以上(三大都市圏では500㎡以上)
・市街化調整区域・工業専用地域に所在しないこと
・容積率が400%未満(東京23区では300%未満)
・普通住宅地区、普通商業併用住宅地区に所在すること

規模格差補正率により減額補正されますが、広大地のような大きな減額にはならないことがほとんどです。

従って、この改正により、これまで広大地に該当していた土地では評価額が大幅に上昇する可能性があります。

逆に、これまで広大地に該当しなかった(例えばマンション適地と判定された)土地については、評価額が下がる可能性もあります。

評価額や規定の適用は土地によって異なりますので、一概に「増税」「減税」と決めつけず、専門家に確認しましょう。

③ 平成29年中に取るべき対策とは

この改正は平成30年1月1日から施行されます。
したがって、平成29年中の相続・贈与であれば広大地の規定が利用できることになります。

該当する土地をお持ちの方は、

・改正前後でどの程度影響があるのかを確認する
・相続時精算課税による生前贈与を検討する

などを行ったほうが良いでしょう。

ただ、注意しなければいけないことは、相続時精算課税制度や生前贈与にはデメリットもあるということです。
具体的に検討する際は、専門家にご相談されることをオススメします。

正直な話、税制改正は、すべての方が正確に情報をキャッチできていないのが現状です。
また、ご自身に関係のある改正かどうかの判断や、関係があった場合の対応も一律ではありません。

ですから、ご自身である程度まで情報を収集できた段階で、専門家のアドバイスを受けることが一番と言えます。

当窓口でも、パートナー税理士による、税務相談や税制改正に関するアドバイスをご用意しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

私たちのサービスが、お役に立ちますように。

※当記事は平成29年8月1日現在の法令及び改正情報等を元に執筆しています。


平成27年度の相続税法改正以降、相続税とその対策が脚光を浴びています。

その影響からか、「相続対策を本格的に考えてみたい」「何から手を付ければよいか知りたい」「今やっている相続対策が適切か知りたい」といった相談が増えています。

そして、ご相談にいらっしゃる方の多くが、「相続税対策」として生命保険の利用が、有効でメリットが多いと思われているようです。

確かに生命保険は、相続対策として非常に有効なツールです。

しかしながら、生命保険であれば何でも良いというわけではありません。

正しい使い方をしなければ、余計な出費やトラブルのもとになってしまいます。

相続税対策として生命保険を利用している方の多くは、保険会社や専門家等に勧められた保険に加入していますが、その保険は、本当に適切な保険なのでしょうか?

生命保険を相続対策として利用するのであれば、その効果やリスクについて、最低限知っておくべきことがあります。

今回は、その中でも大切な3つのポイントを確認してみましょう。

ポイント① 相続税を軽減できる

相続により生命保険金を受け取った場合、一定の『非課税額』が準備されており、同額の預金や不動産を受け取るよりも相続税の負担が少なくなります

非課税になるのは死亡に伴い支払われる『死亡保険金』で(※生前の入院・通院・手術等により支払われる医療保険金等は非課税にはなりません)、非課税金額は『500万円×法定相続人数』です。

例えば、【両親+子ども2人の4人家族】の場合、お父さんが亡くなった際の非課税金額は『500万円×3人(母・子ども2人)=1,500万円』となり、お母さんや子どもが受け取った死亡保険金は1,500万円まで相続税がかかりません(※死亡保険金が1,500万円を超えた場合は、各人が受け取った保険金額によって非課税額を按分します)。

相続により1,500万円の預金を承継するのと1,500万円の死亡保険金を受け取るのとでは、手元に入る現金は同じでも、かかる相続税に差がつくことになります。預貯金に余裕があり、死亡保険に加入していない場合は、相続税対策として生命保険への加入を検討するべきでしょう。

なお、相続税対策として生命保険に加入する場合は、確実にお金を受け取るため終身保険を利用するケースがほとんどです。

ポイント② 遺産に宛名を付けられる

生命保険の被保険者が亡くなった場合、保険契約に基づき「保険金受取人」が死亡保険金を受け取ることになります。

契約に基づくということは、遺言等がなくても保険金を渡したい相手を指定できるということです。「自分が亡くなった後、妻の生活資金の足しにしてほしい」、「孫の学費に充ててほしい」といったように、遺産に宛名を付けることができます。

また、「保険契約に基づき」という部分がポイントで、生命保険金は相続財産に該当しません(みなし相続財産として、相続税の対象にはなります)。

つまり、原則として保険金は「遺留分」の対象にはならないため、相続発生後は、あらかじめ決めておいた「宛名」に遺産をしっかり届けることができるのです。

ポイント③ 契約の内容によっては、無意味な対策になってしまう

いままでのポイントを見る限り、相続税対策として生命保険はメリットしかないように思われますが、気を付けなければいけないこともあります。

相続税対策と生命保険を利用する場合は、被保険者と保険料負担者が重要です。
まず、被保険者は、被相続人となる予定の方でなければなりません。

相続発生時に死亡保険金として受け取らないといけないからです。

高齢や健康を理由に配偶者や子どもを被保険者としている保険をたまにみかけますが、それだと非課税の取り扱いがありません。

加入年齢の上限や健康状態の制限などは保険会社によって異なりますので、税理士や保険の専門家に相談するのが良いでしょう。

また、保険料は被相続人が負担する必要があります。

被相続人以外が負担していると所得税や贈与税の対象となり、相続税対策どころか余計に多額の税金を支払うことになりかねません

すでに保険に加入されている方は、被保険者・保険料負担者・保険金受取人を今一度確認してみましょう。

被保険者 保険料負担者 受取人 かかる税金
被相続人 被相続人 相続人 相続税(非課税)
相続人 被相続人 相続人 相続税(課税)
被相続人 相続人 相続人 所得税

その他、保険料を孫に贈与し、孫を契約者として保険に加入するケースが散見されますが、この場合、相続税対策としては「贈与」だけで足ります。

保険に加入することでの追加の節税効果はありません。

ただし、保険に入ることで預金のように勝手に引き出せない・使えないようにする、という意味では効果的です。

また、相続税対策として保険に加入してみたは良いものの、相続を待たずにまとまった資金が必要となり、解約を余儀なくされることもあるでしょう。

その場合、掛金より払戻し額の方が少なくなり損をするケースがあります。 相続税対策は余裕のある資金の範囲で行うことが重要です。

当窓口では、パートナー税理士による税務相談、相続対策のご相談にも対応が可能です。お気軽にお問い合わせください、

※当記事は平成29年5月現在の法令に基づき作成しています。
実際の対策時には、税理士等の専門家にご相談をおススメします。